バゲットをセットしたスポーツウォッチのトレンドは衰退しつつあるのだろうか? さらに言えば、ミッドセンチュリー期のような生真面目な風潮に回帰しつつあるのだろうか?
彼は世界で最も高級なモダンウォッチ、それもバゲットダイヤモンドをあしらったモデルに大きく予算を割いたのだ。しかし何が彼をジェムセットの時計に傾倒させたのだろうか?
バゲットセット仕様のものは、ジェムセットした時計の頂点に君臨する。それらのなかには趣味のいい華やかなものもあれば、奇抜で退廃的なものもある。ミッドセンチュリーのドレスウォッチに散りばめられたバゲットインデックスには、紛れもなく洗練された雰囲気が漂う。バゲットダイヤモンドは細長く高価であり、ダイヤモンドカットにおけるイングリッド・バーグマン(Ingrid Bergman)のようでもある。全面にバゲットセットを施したスポーツウォッチもあり、こちらもジェムセットの派手さにおいてマグニチュード10相当の破壊力がありそうだ。大胆で隙がなく、やや刺々しさを感じさせる。そう、メイ・ウエスト(Mae West)氏がLAにある中華料理の名店“Mr.Chow”に現れたとき、自然とスタンディングオベーションが起こったような感じだ。
Rexhep Rexhepi
バゲットインデックスを備えたレジェップ・レジェピ クロノメーター コンテンポラン II ディアマン。
現代的なバゲットカットの手法は1912年にカルティエによって編み出された。その後数十年間、アール・デコ期のジュエリーデザイナーたちはクリーンな直線と幾何学的なフォルムを強調するために、このタイプのストーンカットを採用した。バゲットは1930年代のレディースウォッチの装飾にも見られ、男性用の懐中時計および腕時計のダイヤルのインデックス/アワーマーカーにも使用されていた。
Cartier Art Deco timepieces
今日の高級時計製造において、カルティエスーパーコピー時計 代引きバゲットカットは最も好まれるプレシャスストーンのスタイルとなっている。パテックやロレックスのようなスイスの老舗メーカーからジェイコブやMB&Fのような独立系時計メーカーまで、バゲットシェイプの宝石は注目の的だ。スポーツウォッチに最も多く見られるバゲットセット仕様の時計の人気は、(富裕層に限るが)時計収集界隈の上層部において特に顕著だ。宝飾品とは異なり、バゲットをあしらった時計は広大な時計の世界でもほんの一角に過ぎない。希少性や経済的な側面はさておき、バゲットカットの美しさは見る者を驚嘆させる。だから、この記事に掲載されている宝石をあしらった時計の画像をじっくりと眺め、目を眩ませることが心の逃避行となれば幸いである。
バゲットカットの技法を知る
では、なぜバゲットカットがスイスの由緒ある時計ブランドに選ばれるようになったのだろうか。ラウンドストーンと比較するとバゲットは表面積が大きいので、それゆえに好まれるようになったという話もある。「表面積が大きいほど石の視認性と色の輝きが増し、石がより格調高く見えます」。こう解説するのは石のカットとセッティングを専門とし、ジュネーブに本社を置くピエール・サラニトロ(Pierre Salanitro)社である。
Patek
パテック フィリップ アクアノート・ルーチェ Ref.5260/1455R
サラニトロ社はオーデマ ピゲやパテック フィリップを含む高級時計メーカーからジェムセッティングの依頼を受けることが多い。2022年、パテックは同社の株式40%を取得したことを発表。パテックは昨年、ダイヤル、ベゼル、ケースサイド、ブレスレットに130個のバゲットカットのダイヤモンド(8.66ct)と779個のマルチカラーのバゲットカットサファイア(45.05ct)を“インビジブルセッティング”なる技法で取り入れたアクアノート・ルーチェ 《レインボー》ミニットリピーター Ref.5260/1455Rを発表した。なぜって? その答えはパテックのみならず、同業他社にとっても超複雑機構やクラフツマンシップ、そして単に“我々はこれを作ることができる”ということを誇示するのと同列なのかもしれない。
Patek 5719 watch
パテック フィリップ ノーチラス Ref.5719/10G。
ジェムセッティングした時計の消費主義的な側面を非難する前に、宝石のセッティングは尊敬に値する技術であることを理解することは重要だ。「バゲットストーンのセッティングは複雑で、ラウンドストーンのセッティングとは大きく異なります」とサラニトロ社は解説する。「とりわけインビジブルセッティングの技法は石を下から固定し、上から金属素材が見えないようにするため難しいのです」
それを踏まえると高級メーカーがこの技術に傾倒するのは当然だ。アフターマーケットのジェムセッティング業者には完全コピーできないクラフツマンシップを宿す時計……、たとえばロレックスのレインボーデイトナ、パテックのノーチラス Ref. 5719/10Gのようなモデルのリリースはスイスのブランドがアフターマーケットとの差別化を図るための手法のひとつなのだろうか?
Drake wearing a diamond set Nautilus
パテック フィリップのノーチラスRef.5719/10Gを着用するドレイク(Drake)氏。Photo: Getty Images
しかし本当の理由は基本的な経済原理に基づくものなのかもしれない。「スイスにはこの技術を取り扱えるセッター(技師)が非常に少なく、その数は増大し続ける需要を満たすには不十分なのです」とサラニトロ社は説明する。バゲットのセッターにとって課題となるのは、その工程が非常に手間のかかるものであること、そして多くのブランドは単にそのような専門家を揃えるだけの経営資源を持っていないということだ。供給を制限するもうひとつの要因は(これも経済原理だが)、必要な品質の宝石を調達するのが難しいという絶対量の不足の常態化だ。バゲットはほかのカット技法よりもファセットが少ないため、不純物が目立ちやすい。これを避けるにはより質のいい原石が必要だ。つまるところジェムセッティングは、ある匿名の業界関係者が言うところの“職人の飲み比べ合戦”のひとつに過ぎない。これも正統なマーケティング用語のリストに加えようか?
バゲットをアフターマーケットでセッティングすることは可能だが、通常の製造工程で行う技法とは異なる。「セッティングは、たとえばパヴェ(pavé)のようなものではありません。まったく別ものです」。時計ディーラーでありGIA認定宝石鑑定士、4代目宝石商のロイ・ダビドフ(Roy Davidoff)氏は言う。「バゲットをケースにセットするためには時計の構造全体を変える必要があります」。宝石のセッティングを前提としたデザインでない限り、シンメトリー(左右対称性)を実現するのはほとんど不可能に近いのだ。
Gem-set Royal Oak
10本限定のレインボー・ロイヤル オーク Ref.15514BC。ジェムセッティングはサラニトロ社によるもの。バゲットカットのエメラルド861個(~32ct)がセッティングされた、41mm径で自動巻きの18KWG製ロイヤル オーク。
41mm径、自動巻きのWG製ロイヤル オーク、バゲットカットのオレンジスペサルタイトガーネット861個(~47.3ct)。
バゲットカットのピンクトルマリン861個(~35.8カラット)がセッティングされた41mm径の自動巻きロイヤル オーク。
おそらくアフターマーケットでの改造が原因で、宝石がセッティングされた時計は純粋主義者を自認するコレクターや愛好家のあいだで時計学的な逸脱のシンボルとなっている。ジェムセット仕様の時計は往々にして、その美的センスと莫大な値札だけでなく、アイスド・アウト(ド派手な装飾)が施されたアフターマーケットのパヴェケースやプリンセスカットのダイヤモンドがセットされたベゼルを連想させる。時計学の専門家たちによれば、製造時のものから逸脱することはその時計の格を下げる結果にしかならないという。これらは私が支持する考え方ではないが、2024年現在において広く受け入れられている教義なのである。
ハイジュエリーに精通した人々にとってバゲットカットの石は定番であり、これからもそうあり続けるだろう。「私たちが長いバゲットを愛するのは、カットの難しさを知っているからです。ことわざにもあるように“オムレツを作るにはたくさんの卵を割らなければならないし、本当に長いバゲットを作るにはたくさんのダイヤモンドを割らなければならない”のです」。 サザビーズのジュエリー部門、北米担当のフランク・エヴェレット(Frank Everett)副会長はそう説明する。「バゲットの魅力は、タイルのように使えることです。小さなラウンドダイヤモンドでセッティングするのではなく、タイルで敷き詰めるのです。小さなラウンドブリリアントで空間を埋めることは、その隙間を支えの金属で埋めることを意味します。バゲットなら100%ダイヤモンドで空間を埋めることができます。よりラグジュアリー感が増すのです」
VCA Baguette-set jewels
左:ヴァン クリーフ&アーペル “ミステリー・セット”のルビー&ダイヤモンド クリップ ブローチ(1965年ごろ)、右:同じくヴァン クリーフ&アーペルのテーパーバゲットをセットしたイヤリング。 Images: courtesy of Sotheby's
ハイジュエリーにおけるバゲットの使用は、トレンドに左右されるものなのだろうかと私はエヴェレット氏に尋ねた。「バゲットは構成要素です。モチーフを作るのに欠かせない存在だからこそ、使われないということはないでしょう。丸い形状だけではデザインは作れません。直線でなければならないのです」
スポーツウォッチにおけるバゲットセット仕様の台頭
バゲットセット仕様のスポーツウォッチは、ヴァン クリーフ&アーペルのインビジブルセッティングのアールデコ調ブローチとは隔世の感がある。しかしその系譜は、50年代から60年代にかけてパテック フィリップが復活をもたらしたアール・デコのデザインにさかのぼることができる。
パテック フィリップ Ref.3428。Image: courtesy of John Nagayama
女性用カクテルウォッチ以外でも、パテックのカタログを見れば時計デザインにおけるバゲットストーンの使用の進化は明らかである。「バゲットカットのダイヤモンドは比較的軽いため、1930年代から男性用懐中時計や腕時計のダイヤルのインデックスやアワーマーカーとして使われ始め、1950年代から60年代にかけてますます人気が高まりました」と、Collectabilityの共同創設者であるタニア・エドワーズ(Tania Edwards)氏は説明する。そして現代のバゲットセッティングを施したスポーツウォッチの先駆けといえば、パテックのRef.3428だ。ダビドフ氏が“1972年以前のスポーツウォッチ”と表現するRef.2526の後継モデルで、自動巻きムーブメントであるCal.27-460、ボーゲル社製の防水ケース、そしてRef.3428の全体的に堅牢な質感は、パテックが実際にスポーツウォッチを作る前にスポーツウォッチを手がけていたことを物語っている。このRef.3428の究極ともいえる1本は、3時、6時、9時位置にダイヤモンドのバゲットインデックスをあしらっている。
Patek watch
パテック フィリップ Ref.3424/2 。ジルベール・アルベール(Gilbert Albert)デザインによるPt製ケース。 Image: courtesy of Antiquorum
「バゲットダイヤモンドがメンズウォッチのケース装飾に使われるようになったのは、1950年代のことです。1955年にジュエラーのジルベール・アルベールがパテック フィリップに入社すると、時計の装飾に宝石をより実験的に使用するようになりました」。エドワーズ氏はこう解説する。アルベールによるバゲットダイヤモンドの使用は、Ref.3424のように60年代のアシンメトリカルコレクションの大胆で未来的なデザインをさらに際立たせたが、細長いバゲットの使用は伝統的なアール・デコの美学を踏襲していた。
70s baguette-set Patek
パテック フィリップ Ref. 3540とRef.3625。
1970年代を通じて、パテックはRef.3540やRef.3625に代表されるデザイン主導のバゲットセットのモデルをリリースしていた(他社も同様)。これらのデザインは、現代のように洗練されたセッティング技法が一般的になるはるか以前から行われていたものだ。ダビドフ氏は私がWhatsAppで送信した大量の画像に対する返信で次のように述べている。「Ref.3625のセッティングは1本の支えで石を留めるカクテルリングのようなもので、Ref.3540の小さなエメラルドカットはそうですね...…、ベゼル上のふたつの石が正しくセッティングされていませんね。しかしこれは当時許容されていたもので、ロレックスのRef.6270が当時としてはいかによくできていたかを語るのと同じです。クレイジーのひと言です」。ロイ、話題を広げてくれてありがとう。
Rolex ref. 6270
ロレックス デイトナ Ref.6270
ジェムセットされたスポーツウォッチの元祖といえるのがロレックス GMTマスター “SARU” Ref.16758(1980年)だ。厳密にはこの初期ロレックスのジェムセット仕様のリファレンスは、トラピーズカット(Trapeze-Cut)の石を使用している。しかしこれはバゲットと同じ系統のものだ。厳密にバゲットを語るのであれば、Ref.6270(1984年)が真の出発点である。しかし台形型の石は、2000年代初頭のロレックスによるジェムセットしたスポーツモデルの大半に使用されるようになった。まあ、その事実は本記事の進行のために棚上げしておこう。80年代にはケースと同じバケットベゼルを備えたデイデイト、なかでもバゲットのベゼルとセンターリンクを備えたさまざまなオイスタークォーツ “オクトパシー”のバリエーションを含む、ド派手な宝石三昧(ざんまい)のデザインが台頭した。
Rolex Saru
左:ロレックス GMTマスター “SARU” Ref.16758 (1980)。Image: courtesy of The Keystone. 右:ロレックス オイスタークォーツ デイデイト “メカノ” Ref.19168 (1985年)。Image: courtesy of Sotheby's
そして1990年代の自動巻きデイトナの登場後、ロレックスは宝石をちりばめたRef.6270のレシピを取り入れ、スポーツウォッチとジュエリーウォッチの融合、その基準を打ち立てる旅に出た。この試みは、ロレックスによる“プロフェッショナル”向けのツールウォッチメーカーとは真逆のラグジュアリーブランドとなるための多大な努力と相まって絶頂期に達した。ロレックス Ref.16568とその後継モデルはアワーインデックスにバーを配し、そのあいだにふたつのバゲットストーンを敷き詰めたのだった。
ベイエリアを拠点とする時計専門家であり、オンラインオークションプラットフォームLoupe Thisの共同設立者であるエリック・クー(Eric Ku)氏は、「ベゼルのバーは見栄えのためではなく、必要に迫られて使われたのでしょう」と説明する。「専門的なことを言えば、ダイヤルの円周上に石をはめ込むための必要悪だったのです。バーなしでそれを行うと、すべての石を完璧にセットするのは難しいのです。それぞれの石のカラット数にも微小なばらつきがありますし、寸法も微妙に異なります。そうすると欠点が目立つようになります。これはそれを覆い隠す方法のひとつなのでしょうね」
Gem-set Rolex Daytona
ロレックス デイトナ Ref.16568。Image: courtesy of Amsterdam Vintage Watches
2004年、ロレックスはコレクターのあいだで“レオパード”として知られているコスモグラフ デイトナ Ref.116598 SACOをリリースした。ロレックス史上最もエキセントリックな時計といわれるこのモデルは、2012年、そして2018年に登場したデイトナ レインボーのカラフルな先駆けとして登場した(それ以前だと、クー氏が最近販売したという1997年に製造されたユニークピースが存在する)。
Patek ref. 4700-006 ladies' watch
パテック フィリップ ノーチラス Ref.4700/6。Image: courtesy of Christie's
パテック フィリップにおけるバゲットダイヤモンドの最も早い導入は、レディースモデルのノーチラス Ref.4700/6(1984年)とされる。1980年代から1990年代初頭にかけて、パテックは特別注文で紳士用ノーチラスにバゲットダイヤモンドをあしらっていたが、通常生産の紳士用ノーチラスにバゲットダイヤモンドがあしらわれたのは1997年に発表された18KWGまたはPt製Ref.3800/130が初となる。これもまた、明らかなコスト上昇と低需要という事情からごく少量だけ生産されたものだ。
今日においてパテック フィリップはアクアノート・ルーチェを、バゲットセッティングを施した多くの大胆なモデルのキャンバスとして使用している。グレネード柄のダイヤルはこの種のセッティングに適しているが、複雑なジェムセッティングを誇示するためにその主な存在意義である防水性を無視するというのは、まったく表面的な試みに成り下がっていると言えるかもしれない。
Rube Patek Aquanaut watch
ユニークピースの可能性が高いパテック フィリップ アクアノート Ref.5063G (1997年)。 Image: courtesy of Christie's
オーデマ ピゲがロイヤル オークにバゲットを使用し始めたのは1982年のことだ。初の完全アイスド・アウトモデルであるロイヤル オーク Ref.25688は、1989年にユニークピースとして特注された。39mm径のPt製ケースにバゲットカットダイヤモンドが敷き詰められ、MOP(マザー・オブ・パール)のダイヤルにはデイ/デイト表示とムーンフェイズ表示が備わっている。
Ref.25688のような完全なアイスド・アウトモデルは、おそらく仕様変更の結果の産物なのだろう。ダイヤルのシンプルな3・6・9のインデックスから始まり、ベゼルの複雑なセッティング、そしてケース、ブレスレットのセンターリンクへと広がり、最終的には時計全体がバゲットで飾られるようになる。最も極端なケースでは、ムーブメントのブリッジにまで宝石がセッティングされていた。
Omega De Ville Central Tourbillon watch
オメガ デ・ヴィル センタートゥールビヨン 38.7mm Ref.513.98.39.21.56.001
ダビドフ氏はヴァシュロン・コンスタンタンのカリスタ、ピアジェのオーラをアイスド・アウトウォッチの美の先駆者として挙げている。「バゲットの物語は、カリスタなしでは語れません。これは初のフル“バケット”のアイスド・アウトウォッチなのです」と彼は言う。1kgのゴールド無垢のインゴットから削り出され、118個のダイヤモンド(合計130ct)をセッティングしたカリスタ(ギリシャ語で“最も美しい”の意)はカットと組み立てに5年を要した。完成までに費やされた作業時間は実に6000時間を超える。
今年はオリンピックに夢中になった。信じられないような開会式から、よく知られた競技や少し変わった競技まで、ありとあらゆるものを楽しんだ。ストリーミングやほぼリアルタイムのリプレイのおかげで、ありとあらゆることを指先ひとつで見ることができるようになった。もともとオリンピックの大ファンだったが、家で観戦するだけで満足していたため、自分が実際に現地で観ることになるとは思ってもみなかった。今となってはもう一生オリンピックを見逃すなんて考えられない。
Olympics on the Eiffel Tower
“オメガがオリンピックに連れて行ってくれたから、心を奪われたのだろう?”と言われる覚悟はできている。だからこそ、普段この手の旅行、とくに時計の発表会や何かを取材する目的がない旅行は断ることにしている。実際のところ、オリンピックではオメガによって実現した“世界最速の男”の写真撮影や、世界記録達成の際に公開された新しいスポーツウォッチ、さらにはダニエル・クレイグ(Daniel Craig)の手首にあった新しいシーマスター 300Mのお披露目など、時計にまつわるニュースは多くあった。だが信じてもらえない人たちに対しては、正直にこう言うしかない。
Olympic Chronoscope
オメガスーパーコピー 代引き スピードマスター クロノスコープ パリ2024エディション
実際にオリンピックを目にすることで、競技そのものやアスリートたち、そしてオリンピックが意味するものへの愛情と敬意がさらに深まった。もしオメガへの愛が増したとすれば、それはほかの時計に対する愛がいつもそうであるように、結局は“人”によるものだったのだと思う。オメガファンだけでなく、世界中から集まった情熱的なファンの大群に囲まれたことが、オリンピックをまったく新しい次元に引き上げてくれた(観客の大歓声で永続的に耳を傷めてしまったかもしれないが、その経験も含めてだ)。
Omega Speedmaster Mk40
このモデルこそが、HODINKEEのすべての始まりとなったオメガ スピードマスター マーク40である。希少でもなければ高価でもないが、重要なのはそのストーリーなのだ。
結局のところ、人々こそがストーリーテラーであり中心なのだ。“最も重要なムーブメント”や“最も美しいモデル”から、“私にとっていちばん大切な時計”まで、すべての最上級表現はストーリーから始まる。オメガとともに参加したオリンピックで出会ったコレクターや小売業者、同僚たちから感じ取ったのは、オメガというブランドと時計に対する情熱と興奮だった。彼らは実に希少で、ときに珍しい時計を持ち出してきた。しかし私が出会ったすべての人が証明してくれたのは、話題性や投資収益のためではなく、それぞれの時計が持つストーリーと、所有者にとって特別な存在となるディテールが重要だということだった。いつも言っていることだが、すべての時計を集める余裕がなくても、少なくともそのストーリーと知識は集めることができる。そしてオリンピックで出会った人々は、そのストーリーをよろこんで共有してくれた。
Olympic timing watch
1932年のオリンピックで使用された、初期のスプリットセコンドクロノグラフのひとつがパリのオメガハウス(特別なイベントスペース)に展示されていた。
ある意味で、オリンピックにおけるオメガの役割は舞台裏に自然に溶け込むことだ。それはこの92年間、主に“公式タイムキーパー”としてオリンピックを支えてきた役割でもある。確かに1964年、1972年、1992年、1994年にはセイコーが計時を担当したが、オメガは2032年の100周年まで公式タイムキーパーを務める契約を結んでいる。この92年のあいだに状況は大きく変わった。1932年の大会では、オリンピック会場にひとりの時計職人と30個のスプリットセコンド懐中時計が配置され、10分の1秒を計測していたが、2024年には1秒間に4万コマを撮影するカメラと1000分の1秒を簡単に計測できるタイマーが登場するまでに技術が進化した。パリのオメガハウスに展示されているのは、まさにその1932年当時の懐中時計のひとつである。
Photo finish
男子100m決勝のフォトフィニッシュ。Photo: courtesy of Omega
もちろん、オメガのブランディングは随所に見られるが、パリに設置されたオメガハウス(社交クラブと博物館を兼ねた施設)以外では比較的控えめだ。それはオメガブランドのテクノロジーにも同様に言える。その技術の多くはスウォッチグループ傘下のスイスタイミング社によるもので、オメガだけでなく、ロンジンなどのブランドにも提供され、さまざまなスポーツイベントで活用されている。実際に意識して探さない限り、目立つことはない。肝心なのは目立つことではなく、アスリートたちの何年にもわたる努力を台無しにするような機材トラブルを避けることだ。そして世界最高のアスリートが誰かを決める瞬間が来ると、オメガはその場に立ち会い誰かのストーリーに貢献する。
Omega Seamaster sign
ダニエル・クレイグ氏がノンデイトのシーマスター 300Mを着用していることについて記事を書いた翌日、会場周辺にある時計がどこか見覚えがあるのに気づいた。
Omega Lollipops
先週パリにいたなら、オメガの“ロリポップ”を見かけているかもしれない。ビザやNBC、そのほかのスポンサーの看板と並んで、いろんな人たちが目的地に辿り着くのを助けていた。
パリから持ち帰りたかったのは(ギフトショップで購入した十数個のピンバッジに加えて)、オメガが使用する計時技術に関するストーリーだった。しかし現地にいた48時間ではそれを間近で見ることは叶わなかった。それは数年後まで待つことになるだろう(編注;HODINKEE Japanではオメガタイミングの記事を掲載している)。皆を一緒に連れて行けたらよかったのにと思う。もしかすると、すでに自分で行った人もいるかもしれない。ただ私が短い時間で目にした最もクールな時計や瞬間をまとめたPhoto Reportを見ることで、少しでもその場にいた気分になってもらえたらと思う。時計に対してもオリンピックそのものに対しても、あの場で感じた情熱の一端でも伝われば幸いだ。
1日目: スピーディとビーチバレー
Omega Tokyo Rising Sun Olympics Speedmaster
前回の夏季オリンピック(少なくとも時計に関して)の話に戻ろう。フラテッロのロバート=ヤン・ブロア(Robert-Jan Broer)氏が着用していたオメガ スピードマスター“ライジングサン”東京オリンピック限定モデル、Ref.522.30.42.30.06.001。これは2日目のスタートに彼が選んだ時計だった(もちろん彼はスピードマスターを複数本持参していた)。
River Seine
オメガハウスから少し歩き、バスに乗ってセーヌ川を下ると、開会式が行われた数々の場所を目にすることができた。
Omega Chronoscope Olympics
オリンピックのためにつくられたオメガ スピードマスター クロノスコープをもう1度。時計よりも手首につけた様子を見せたくて投稿したかった。
Reynald Omega
手首はオメガCEOであるレイナルド・エシュリマン(Raynald Aeschlimann)氏だった。彼はいつものように、セーヌ川を下るあいだに率直な感想をいくつか共有してくれた。
CK 2998
オリンピックにおいて、時間を計測するスピーディは最も理にかなっているかもしれないが、自分がどれだけハードに働いているかを知りたいなら2018年限定のオメガ CK 2998のような時計を試してみるのもいいだろう。
Omega Constellation
オリンピックで見かけたのはスピードマスターだけではなかった。こちらは珍しくてあまり見かけないオメガ コンステレーション ダブルイーグル クロノグラフ“ミッションヒルズ”エディションで、サウジアラビアから来た新しい友人、シェイク・モハメド・アル=フセイニ(Sheikh Mohammed Al-Hussaini)氏の手首に輝いていた。
Seine
セーヌ川を下り、グルネル橋にある自由の女神像の周りを回ったあと、再び川をさかのぼった。
Eiffel Tower
Eiffel Tower
Olympic Seamaster
オリンピックのために登場した、新しいシーマスター 300Mをつけていたのは、子供たちが言うところの“しっかり準備した”コレクターだった。
304.93.44.52.99.002
船を降りる前に、まさか見られるとは思ってもみなかった時計に出合った。それは台湾のコレクターが手首につけていたスピードマスター ムーンフェイズで、プラチナゴールドのケースに赤いアルミナ製のベゼルリング、サテン仕上げのプラチナ製リキッドメタルタキメーターとルビーのインデックスが特徴的なモデルだった。
Speedmaster
もちろん、定番のスピードマスターもたくさん見かけた。
Speedmaster “From Moon to Mars"
さらに個性的なモデルも登場した。たとえばスピードマスター“フロム ムーン トゥ マーズ”のRef.3577.50.00のようなものだ。この表現、少し洒落が効いている。
Wei Koh Silver Snoopy
このタトゥーに見覚えがあるかな? そうウェイ・コー(Wei Koh)氏だ。彼の手首にはシルバーのスヌーピー スピードマスターが輝いていた。
Sedna Gold Speedmaster
なかには金メダル、つまりセドナゴールドを選んだ人もいた。たとえばスピードマスター Ref.310.60.42.50.01.001とか。
View of the Volleyball Park
エッフェル塔に登ると、ビーチバレーの競技が行われているエッフェル塔公園の景色が一望できた。
ここ数カ月行った比較において、とくに興味深かったもののひとつが自社製クロノグラフのThree On Threeであった。いずれも手巻きのクロノグラフ機能を備え、かつ自社製ムーブメントを搭載した、とても優れた3本の時計だった。そのとき述べたように、ヨーロッパのウォッチメイキングにおける自社製の手巻きクロノグラフムーブメントを搭載した腕時計は、実際には極めて希少な存在であった。クロノグラフの設計は驚くほど複雑であり、カルティエ(当時)のキャロル・フォレスティエ-カザピ(Carole Forestier-Kasapi)氏が、“優れたクロノグラフムーブメントをつくることは、トゥールビヨンの製造よりもはるかに難しい”と語っていたことを思い出す。一般的に、クロノグラフウォッチを作る際にはヌーベル・レマニア社のような専門サプライヤーからムーブメントを調達するのが通例であった。それゆえ1999年にA.ランゲ&ゾーネが“ダトグラフ”を発表したことは多くの時計愛好家を驚かせた。この時計は瞬く間に世界中で注目を集める。自社製クロノグラフであるだけでなく、自社製フライバッククロノグラフ機能を持ち、口コミ第1位のスーパーコピー時計 代引きさらにきわめて精巧に設計されたアウトサイズデイト表示も備えていたのだ。
ダトグラフは現在も健在であり、Three On Threeで比較したヴァシュロンやパテックのクロノグラフとも非常にいい対比を見せた。その際、とくにその卓越した構造と仕上げ、そしてムーブメントの驚くべき美しさに多くの賞賛が寄せられた。
しかしながら、ダトグラフに対する批判のひとつはその厚みであった。とくにパテックの5170Gと比較した際、その点が指摘された。確かにダトグラフは厚みがあるが、ダトグラフと5170Gがほぼ同じ価格帯に位置しているにもかかわらず、ダトグラフはまったく異なる時計であるという点に多くの読者がすぐに気づき言及していた。フライバッククロノグラフであることに加えて、アウトサイズデイト表示とパワーリザーブ表示の複雑機構も搭載しているためである。したがって、ダトグラフと5170Gを比較することは、A.ランゲ&ゾーネにとって不公平な“異なるもの同士の比較”であり、実際にはむしろ1815 クロノグラフのほうがふさわしい比較対象であったという批判が生じた。そこで今回は1815 クロノグラフに注目し、その競合モデルとの比較だけでなく時計そのものの評価も行うことにした。
1815 クロノグラフは、A.ランゲ&ゾーネが製造するクロノグラフモデルのなかで最もシンプルなモデルであり、その本質はアウトサイズデイト機能とパワーリザーブ表示を省略したダトグラフといえる。初代1815 クロノグラフは2004年に発表され、その時点で一定の注目を集めたが、もちろんダトグラフほどの関心は得られなかった。しかしより簡素でありながらもきわめて高品質なクロノグラフを求める顧客にとって、このモデルは非常に適した選択肢であった。ダトグラフよりもやや薄型なのは主にアウトサイズデイト表示が省かれたことによるものだが、裏蓋越しに見えるムーブメントの美しさは変わらず卓越しており、ダトグラフと同様に見事な仕上げが施されている(アウトサイズデイト機構はダイヤル下に配置されている)。初代モデルにはパルスメータースケールが備わっており、これは古風な機能ではあるものの、そのヴィンテージ的な魅力ゆえにとても人気が高い(まさにかつての時代、一般の医師が高級腕時計を手にすることが可能であったころの優雅な時代を思い起こさせる)。パルスメータースケールは患者の脈拍を測定する際に使用されるもので、多くの場合30拍に対して目盛が刻まれている。計測は、脈拍を数え始めたと同時にクロノグラフを作動させ、30拍に達した時点でクロノグラフを停止させる。秒針が指し示す数値が、その患者の心拍数を示す。
2010年にデビューした新バージョンのダトグラフではパルスメータースケールを撤廃。それによりクロノグラフのインダイヤルが大きくなった。しかしながらダイヤル全体の印象はやや平坦になっている。それでもパルスメータースケールはコレクターに非常に人気があり、A.ランゲ&ゾーネは先月香港で開催されたWatches & Wondersで発表したブルー&ホワイトダイヤルの1815 クロノグラフ ブティック限定モデルに、このスケールを再導入した。これまで耳にした1815 クロノグラフに対する批判はインダイヤルの配置に関するものであり、アウトサイズデイト窓との左右対称を保つため、ダイヤルの中央線よりも下に配置されていることが明らかである。
しかし、私はこの批判が時計に対する重大な問題だとは思わない。実際、2004年から断続的にこの時計を見てきたにもかかわらず、最近までその点に気づくことも意識することもまったくなかった。新旧モデルの唯一の違いはケースの直径で、新バージョンは39.5mm、オリジナルは39mmである。だが実際には両者を並べて比較しない限りその違いに気づくのはほとんど不可能であり、たとえ並べたとしても特に目立つわけではない。
もしどちらかを選べと言われたら、個人的にはこのストーリーのために撮影した旧モデル、つまりローズゴールドにブラックダイヤルの組み合わせを選ぶだろう。ただどちらの時計もきわめて美しく、好みの違いに過ぎないとも思う。並べて比較すれば、新モデルのほうが視認性が高く、全体的によりクラシックで調和の取れたデザインであることが明らかだが旧モデルには独特の魅力もある。新たに発表された1815ブティック限定のよい点は選択肢が広がったことだ。パルスメータースケールを望むならブティックエディションを、必要としないならスタンダードモデルを選べるのである。
では、1815と5170Gについて話を戻そう。意外に思うかもしれないが、これらふたつの時計はサイズにおいてほぼ同じである。5170Gのケース厚は10.9mmで直径は39.4mm、ムーブメントはパテックのCal.CH 29-533で、そのサイズは29.6mm径×5.35mm厚だ(ちなみにパテックがCal.27-70として使用したレマニア2310の厚さは5.57mm)。この時計はかなり薄く、とても快適なつけ心地を提供するが、決してエクストラフラットなクロノグラフというわけではない。たとえばピアジェのアルティプラノ クロノグラフには883Pというムーブメントが搭載されており、それはフライバック機能付きのコラムホイール式キャリバーであったが、その厚さは4.65mmである。
1815 クロノグラフは直径39.5mmで、実はパテックの5170よりわずかに薄く、厚さは10.8mmである。ムーブメントはランゲのCal.L951.5であり、直径30.6mm、厚さ6.1mmだ。このムーブメントはダトグラフが持つ視覚的効果を持ちながらも、やや控えめで洗練された手巻きのフライバッククロノグラフムーブメントである。A.ランゲ&ゾーネが時折“分厚い時計メーカー”として語られる理由は、正直言ってよく分からない。確かに同社の一部の時計、とくに複雑機構を備えたモデルは比較的厚みがあるが、それはほかのメーカーも同様である。
正直なところ、問題の一因は聞こえのいいストーリーが時として現実をあいまいにしてしまうことだと思う。“大げさにつくり込まれたドイツ時計の製造”というイメージがA.ランゲ&ゾーネに強く結びついているが、同社はスリムかつエレガントでシンプルな時計も多く製造している。サクソニアはその代表的な例であり、1815も実際には、技術的に類似したパテックよりもわずかに薄い(ダトグラフとの比較対象としてより適切なのは、パテック 年次カレンダー・クロノグラフ 5905P である。このモデルのムーブメントは直径33mm、厚さ7.68mmで、31mm径×7.9mm厚というダトグラフのムーブメントとほぼ同等のサイズである)。
そして忘れてはならないのは、パテック 5170Gの価格が8万1000ドル(当時の定価は税抜きで856万円)であるのに対し、1815 クロノグラフは5万1500ドル(当時の定価は税抜きで565万円)であるという点だ。つまり実際の数字を見てみると、A.ランゲ&ゾーネでクロノグラフを選ぶと、ドイツ的で堅固すぎる厚ぼったい時計に縛られてしまうという一見もっともらしい主張は、あっという間に消え去ってしまう。結果的に、世界で最も美しいクロノグラフのひとつを手にすることができる。しかもその価格は最も近い競合モデルよりも3万ドルも安い。もちろんこのレベルの価格帯と仕上げにおいて、単なる価格比較や値段を追求することは主な考慮事項ではないが、それでも3万ドルという金額は今日の高級時計の非合理的な価格基準においてさえ無視できない大金である。
A.ランゲ&ゾーネの1815 クロノグラフは、現代の時計業界においてはある種のお買い得品といえる(5万ドルの腕時計を“お買い得”と呼ぶことが、社会的な反発や社会主義者の情熱を煽らない限り)。A.ランゲ&ゾーネが美学よりもエンジニアリングを重視するドイツの伝統にのっとり、分厚い時計ばかりつくっているという誤った考え(あるいは何かそれに類するもの)からこの時計を検討しないことは、非常にエレガントで見事な時計製造技術の粋を見逃してしまうことになる。
もちろんダトグラフ、パテック 5170G、ヴァシュロンのハーモニー・クロノグラフを価格の観点で比較することは依然として有効である。だが読者のなかにはA.ランゲ&ゾーネに関してもう少し繊細な視点を持つべきだと示唆した人もおり、その意見も一理ある。確かにA.ランゲ&ゾーネの自社製クロノグラフの物語は、1999年にダトグラフで華々しく幕を開けたが、それ以来そのラインナップは著しく成長し、多様なモデルを取り揃えるようになった。中でも、美しく完成された、そして美しく身につけられるランゲ 1815 クロノグラフもその一例である。
もし街で私に近づいて、「ねえ、ベン、1990年代に作られた最高の時計は何?」と尋ねられたなら、私は迷わずこう答えるだろう。「A.ランゲ&ゾーネのトゥールビヨン“プール・ル・メリット”だ」と。そしてさらに、「ねえ、ベン、君が実際につけてみたい、あるいは所有したいトゥールビヨンウォッチがあるとしたらどれ?」と聞かれたとしても、やはり私はこう答えるだろう。「A.ランゲ&ゾーネのトゥールビヨン“プール・ル・メリット”だ」と。
ランゲの再出発の後光がさしたのは、まさにトゥールビヨン“プール・ル・メリット”であった。
確かに、私はこの時計がたまらなく好きだ。多くの人がPLM(プール・ル・メリット)と呼ぶこの時計は、1994年に発表されたランゲの初期コレクションの一部であり、ランゲ1がその後さらに進化を遂げたことは否定できないものの、純粋なトゥールビヨンに関して言えば、オリジナルのPLMほど時計マニア(つまり、私のような“マニア”)に訴えかけるモデルはまだ出ていないように思う。オリジナルのフュゼチェーン機構、38.5mmのケース径、完璧な対称性。そしてドイツ時計の最高峰としての系譜に加え、ジュリオ・パピ(Giulio Papi)やルノー・エ・パピ(Renaud et Papi)でキャリアを積んだ、歴史的なスイスの名職人たちとのつながりもある。実際、ウォルター・ランゲ(Walter Lange)自身も特別な機会にのみこの時計を身につけるほどだった。私にとって、これ以上の時計はない。
だが、スーパーコピー時計 代引き実はこのPLMが今あまり注目されていないのだ。今週から来週にかけてジュネーブで3本のPLMが出品される予定であるため、皆にもぜひ知っておいてもらいたい。
A.ランゲ&ゾーネの“プール・ル・メリット”シリーズ。
まず、出品される3本の時計について触れる前に、“プール・ル・メリット”がランゲにおいてどういう存在かを理解しておくことが重要だ。そしてそれを知るには、2017年のHODINKEEに掲載されたこの記事以上の資料はないだろう。歴史的に見れば、PLMコレクションの時計はランゲのコレクターたちにとってまさに“山の頂上”とされてきた。だが最近ではブランド自身も新しい世代の購入者も、このコレクションに以前ほど焦点を当てていないように思う。
それでも、オリジナルのトゥールビヨンPLMは、私にとって現代最高のトゥールビヨンだ(あるいは、少なくともトップ2には入るだろう。もうひとつはもちろん、ジュルヌの“トゥールビヨン・スヴラン”だ。ちなみにこの2本の時計は、2016年に書いた“トゥールビヨンを嫌う男性(または女性)のための7つのトゥールビヨン”という記事でも大きく取り上げている)。しかし、この時計はかつてのような魅力を感じさせなくなってきているように思う。正直なところ、PLMは長年にわたって私の“究極の時計”であり続けてきた。それはおそらく2013年ごろからだろうし、それは今も変わっていない。実際、何度も購入に近づいたが、さまざまな理由でそのたびに指をすり抜けた。
“1週間で3本も出品されるなら、いいPLMを見つけるのはそんなに難しくないんじゃないか?”と思うかもしれないが、そこには理由がある。6カ月前まで、最も一般的なイエローゴールド以外のトゥールビヨンPLMが市場に出回ることは極めてまれだった。私の見立てでは、2~3年に1回見るか見ないかの頻度であり、ほとんど手放す人がいなかったのだ。それが6カ月ほど前から、いくつかの個体が姿を見せ始めた。ここニューヨークのChrono24に、オリジナルオーナーが所有するプラチナモデルが出品されたのを発見し、売主と話をしたものの、提示価格があまりに高すぎた。さらに同じころ、ACM(A Collected Man)の友人たちもこの時計をリストに加えていた。そしてまた、ある有名なドイツのディーラーが3本目のプラチナPLMを販売リストに載せたのだ! 15年間この時計に注目してきたが、同時に3本のプラチナPLMが出品されるなんて、信じられなかった。にもかかわらず、それらは市場に出たまま長いあいだ動かなかった。最終的には売れたと思われるが、どれも40万ドル(日本円で約6160万円)以上、一部は50万ドル(日本円で約7700万円)以上という価格だった。売主に話を聞くとそれが問題だったのだ。購入希望者はいたが、売主が期待する価格帯には届かなかったのである。
私は混乱した。私の世代のランゲ愛好家にとって、PLMはランゲの王者だ! 友人であり同僚であり、次世代のランゲファンを代表する存在だと思っているHODINKEEのタンタン・ワンにメッセージを送った。彼のPLMへの反応は? “うーん、まあクールだとは思うけど”というものだった。彼にとっての興味は、むしろ今のランゲにあるらしい。ブランドの過去を尊重しつつ、未来へと進んでいくランゲとともに歩むことに重きを置いているようだ。
ブランド誕生30周年を記念した新作、ランゲ1 オニキスダイヤル。
“僕のような若いコレクターには、最近のランゲ1 オニキスダイヤルのような新作が、ランゲの歴史の一部に自分も加わっていると感じさせてくれる。オリジナルに対する敬意を感じつつも、異なるテイストがあるものを製作してくれると、ブランドの“黄金時代”を逃したという疎外感もなくなるし、ただブランドをコレクションするために現行品を買わなくても済む気がするんだ”と彼は語る。
タンタンのように、歴史的なモデル、たとえば希少な宝石セットの作品やイエロージャケット、初期のクローズドケースバック仕様のランゲ1などに興味を示さない現代のランゲ購入者は少なくない。だが私に言わせれば、それらのモデルもトゥールビヨンPLMも、まだまだこれから評価が高まっていくと思っている。
希少なランゲ トゥールビヨン“プール・ル・メリット”が3本、同じ街、同じ週に出品される
素晴らしい時計、特にランゲの時計が売りに出されていることを皆に知らせるのは、この上ない喜びだ。5年前、私は最高のランゲ1が3本販売されていると紹介したが、今回は最高のトゥールビヨンランゲが3本も出品されていることを伝えられることがうれしい。しかもすべてがオリジナルの“プール・ル・メリット”であり、最も一般的なYG製シルバーダイヤルは1本も含まれていない。実際には、異なる金属とダイヤルカラーの3本がそろっている。こんなラインナップがそろうのは前代未聞だ。
プラチナ製のトゥールビヨン“プール・ル・メリット” シルバーダイヤル(No.43/50)
では今回出品される時計について見ていこう。私が一番欲しくて、いつか手に入れたいと心から思っているPLMのバージョンを挙げるなら、このモデルだ。本作はプラチナケースにシンプルなシルバーダイヤルを備えたモデルで、50本限定で製造されたものだ。YGに次いで比較的流通しているモデルだが、少なくとも歴史的には市場に出回ることがきわめて少ない。というのも、これら50本は資金力のあるコレクターたちの奥深いコレクションに収まっており、市場に姿を現すことは何年もなかった。たとえウェブサイトに掲載されたとしても、即座に売れてしまう。今回サザビーズに出品されているのは、50本ある内の43番目で、フルセットが揃っているようだ(これは必ずしも当たり前ではない)。ただ保証書がサイン入りか未記入かについてはまだ確認していない。ランゲのセットでは、この点が重要な違いをもたらすことがあるようだ。推定価格は25万~50万スイスフラン(日本円で約4390万~8785万円)。詳細はこちらから。
ピンクゴールド製のトゥールビヨン“プール・ル・メリット” ブラックダイヤル(No.120/150)
サザビーズ・ジュネーブに出品されるもうひとつのモデルが、このブラックダイヤルを備えたPG仕様のPLMだ。特別なPLMのなかでは比較的見かけることが多いバージョンであり、私にとってはYGより上位、プラチナには一歩及ばない位置にある。とはいえ、その希少性は際立っており(プラチナが50本に対してこちらは24本)、サザビーズでは未記入の証明書とともにオリジナルのタグなど、多彩な付属品が揃った状態で提供される。推定価格は15万〜30万スイスフラン(日本円で約2635万~5270万円)。詳細はこちらから。
ホワイトゴールド製のトゥールビヨン“プール・ル・メリット” ブルーダイヤル(No. 102/150)
最後に、サザビーズとは別の会場であるフィリップスが、もう1本の希少なトゥールビヨンPLMを出品した。この個体(150本中102番)はWGにブルーダイヤルを備えており、19本のみ製造された特別なモデルだ(20本目のWG製PLMはブラックダイヤル仕様で存在する)。そのため、このWG×ブルーダイヤルはPLMのなかでも特に希少で人気が高いバージョンのひとつと言える。補足として説明しておくと、今回のWGと前述したPGモデルはどちらも150本限定のナンバーが振られているが、この150本という数は、すべてのゴールド製PLM(さまざまなタイプとダイヤルの組み合わせ)を含む総製造本数を指している。フィリップスによると、その内訳は以下のとおりだ。
フィリップスによると、WG×ブルーダイヤルの組み合わせがオークションに登場したのは過去に1度だけで、私も11年前に取り上げている。いやはや、ずいぶん長くやってきたものだ。
とにかく、今回の推定価格は15万〜30万スイスフランだ。詳細はこちらから。
トゥールビヨンPLMの価値と収集性に関する簡単な考察
ここまで読んで伝わっているかもしれないが、私はこれらの時計の価格動向を常に細かくチェックしている。すべてのモデルでだ。YGモデルも例外ではなく、C24(Chrono24)で今まさに3本出ているものの、通常は簡単には手に入らない。最近では価格が大きく変動しており、今の市場は売り手の希望価格と買い手の提示価格の差が非常に広がっている時期だと思う。
現在の状況はほかの多くの市場と変わらない、今や存在しない市場環境にしがみつこうとする人もいれば、現実に即した取引をしたい人もいる。過去12カ月で何本か出品されているトゥールビヨン“プール・ル・メリット”の特別モデルに対して、ディーラーが40万〜50万ドル(日本円で約6160万~7700万円)の価格を付けている状況も同じだ。これら3本が売れたあとに、彼らはその価格を妥当と感じて再出品するかもしれないし、もしくは多くの人々がこの素晴らしいヴィンテージウォッチに支払いたい価格について、現実的な再評価を行うことになるかもしれない。結局、答えを出すのは時間だけということだ。
このオークションは、日本の時計収集を特集する初めてのセールで、日本独自の美意識と収集文化を反映したコレクションが集結。出品されるのは、特に日本市場向けに製造・販売された貴重なモデルをはじめ、完璧に近い状態で保管されてきた日本人コレクターの逸品、さらに、日本を代表する独立系ブランドが特別に手掛けたユニークピースなど、多彩なラインナップです。先日、東京で開催されたオークションプレビューでは、いち早く出品されるロットが披露され、その後全115ロットの詳細がオンラインでも公開されました。
ロット78: ロレックス プレデイトナ Ref.6238 − 和田 将治
今回の日本をテーマとしたオークションのなかで、特に個人的に興味を引かれた時計のひとつが、14Kイエローゴールド製のロレックス プレデイトナ Ref.6238です。この時計には、時計収集の醍醐味を再認識させてくれる、独自の魅力が詰まっています。
スーパーコピー時計このプレデイトナは1967年頃のもので、14Kイエローゴールド仕様からもわかるようにアメリカ市場向けに作られたモデルです。しかし、最大の特徴はケース(ベゼル、ケースサイド、ケースバック)とブレスレット(エンドリンク、バックル)全体に施された精巧なエングレービングです。虎と女性をモチーフにした装飾がケースバックとバックルに繊細ながらはっきりと確認できます。
また、この時計は1991年に発行された日本の時計雑誌『世界の腕時計 No.8』にも掲載されています。当時のオーナーである日本人コレクター・山中氏が、ニューヨークで開催されたナイフショーで偶然この時計を発見し、アメリカのロレックス代理店から長時間の交渉の末に手に入れたと伝えられています。このエングレービングは、ナイフの彫金で著名なイタリア人彫刻家マルチェロ・ペディーニ氏によるもので、その繊細で美しい彫刻が時計全体に施されています。
現代の時計収集における価値基準の多くは「いかにオリジナルのコンディションが保たれているか」にあります。この時計はエングレービングが加えられているにもかかわらず、全てオリジナルパーツで、素晴らしいコンディションを保っています。注目すべきは、前回のオークションでの販売価格です。この時計がオークションに登場したのは2007年のクリスティーズ「Important Watches」セールで、78万7500香港ドル(当時のレートで約1150万円)で落札されました。驚くべきことに、同オークションで出品されていた他のデイトナモデルよりも、このエングレービングが施されたプレデイトナが最も高い価格で落札されていたのです。参考までに、ポール・ニューマン デイトナ Ref.6239は63万1500香港ドル、金無垢のRef.6263は54万7500香港ドル、スティール製のRef.6263は42万7500香港ドルで落札されています。驚くべき金額で新たな日本人のオーナーへと渡り、今回このTOKIウォッチオークションに登場したというわけです。
時計の価値が「オリジナルであること」に大きく偏っている現代の収集基準において、このプレデイトナは、時計収集という趣味が本来いかに自由で、個人の感性に委ねられているかを思い出させてくれる存在です。エングレービングが施されたこの一本は、当時のオーナーが自身の美意識と価値観で時計に新たな物語を刻んだ証であり、収集の楽しさを改めて教えてくれるように思います。時計収集は、必ずしも「オリジナル」にこだわるだけでなく、こうした個性や物語が加わることで、一層深みのある楽しみ方ができるのだと感じさせてくれます。
エスティメートは16万〜31万香港ドル(約470万〜784万円)です。ロット78の詳細はこちらから。
ロット80: ルクルト Ref. E2643 − 関口 優
僕は個人的に手巻きクロノグラフが自分のコレクションにおいて、今後重要だと感じるようになった。それは、程よいサイズ感で時計とのインタラクティブ性も持ち、少しだけアクティブな気持ちで着用できるものだからだ。ただ、現行品を見渡すと、オメガのスピードマスターですら100万円を超え、一般的に「手巻きクロノ」が代名するものはハイエンドなウォッチメイキングのことになってしまったことに気づく。その矢先に本オークションのプレビューで目に飛び込んできたのが、このヴィンテージクロノグラフなのである。
このルクルトは、1960年代に発表された珍しいダイバーズ・クロノグラフで、アメリカ市場向けに開発されたためLeCoultre銘がプリントされている。ダイバーズ、と言ったが、ワールドタイム、テレメーター、60分積算計のみっつのベゼルが付属するため、持ち主の好みによってはいかようにもその表情を変えてくれると思う。シャーク・ディープシー(欧州向けのものはヴォーグ・クロノグラフと呼ばれた)という名の本機は、バルジュー72をベースとして2万1600振動/時にアップグレードされたバルジュー726を搭載。オーセンティックな手巻きクロノグラフの味わいを十分に味わわせてくれる。
確かに、時計を実用品としても捉えるなら自動巻きの方が圧倒的に便利だし、現代の時計メーカーが新作を開発するなら当然のようにそれをベースにするだろう。わざわざ手巻きベースのものを開発するメリットは、おそらく多くの人にとって皆無だ(メーカー側にも買い手にも)。ただ、それはおそらく今後、それほど多くの手巻きクロノグラフは市場に現れず、ハイエンドウォッチメイキングを表現するジャンルであり続ける可能性が高いということでもある。僕は単純にこれらのスタイルが好き-計器っぽさがあって無骨なのに、薄型を目指しエレガントなデザインが与えられることが多い-なこともあるが、コレクタブルな対象として、まだ野放しにされている分野であることからも注目に値すると考えている。
ここ数年、「時計」熱に浮かされてきた我々にとって、少し目先を変えることも大切だ。現実的な自分の予算で、時計を探求するという本来的な楽しみは、(例えば)このルクルトのような手巻きクロノグラフが教えてくれるだろう。
エスティメートは5万5000〜9万5000香港ドル(約100万〜186万円)です。ロット80の詳細はこちらから。
ロット40:セイコー 天文台クロノメーター検定合格モデル − 佐藤 杏輔
気になるロットはほかにもいくつかあった(ロット15のFRAGMENT DESIGN × BAMFORDのRef.114060カスタムやロット82のRef.6263 “ビッグ・レッド”デイトナなど)が、結果がどうなるかということに関して最も注目しているのはロット40のセイコー 天文台クロノメーター検定合格モデルだ。
セイコーは1964年に、日本の時計メーカーとして初めてヌーシャテル天文台コンクールに第二精工舎(現セイコーインスツル株式会社)と諏訪精工舎(現セイコーエプソン株式会社)の2社が機械式腕時計部門に参加した。初年度こそ結果は振るわなかったものの、わずか3年後にはトップ10に食い込むほどの急速な進歩を見せた。コンクール(ヌーシャテル天文台での)自体は1967年を最後に終了となるが、天文台でのクロノメーターテストと認定は継続して行われ、セイコーは1968年に100個のCal.4520(セイコー初の手巻き10振動ムーブメント)をクロノメーター認定のために提出し、うち73個が無事認定された。その後も69年と70年の2年間で153個が検定をパス。こうしてセイコーでは、計226個の天文台クロノメーター認定を受けた。
驚くべきはセイコーがこの天文台クロノメーター認定を受けたキャリバーを用いて検定合格モデルとして市販したことだ。この天文台クロノメーター検定合格モデルのなかでも、1969年に最初に認定を受けたムーブメントを用いて73本だけ発売されたモデルには、特別調整したCal.4520をそのままの番号で搭載した(前期モデル)。一方、これ以降に発売されたモデル(後期モデル)にはCal.4580のナンバーが与えられた。ロット40は1970年に発売されたCal.4580を搭載する後期モデルだ。
天文台クロノメーター検定合格モデルは希少なモデルではあったものの、評価していたのは基本的には国内のコレクターやディーラーたちであり、正直なところ、世界的に認められていたモデルとは言い難かった。だが、近年の海外におけるグランドセイコーのブランディングが成功したことをきっかけに、日本の時計ブランドの存在感はかつてないほどに増している。実際のところ、世界のコレクターたちのあいだでセイコーはどれほど注目されているのか? 歴史的にも貴重なこのヴィンテージモデルが、一体どのような結果を見せるかによって、その本領が見えてくるのではないかと思っている。
エスティメートは16万〜31万香港ドル(約320万〜600万円)です。ロット40の詳細はこちらから。
ロット13: オメガ スピードマスター プロフェッショナル “ゴールデン・パンダ” − 牟田神 佑介
今回の「TOKI -刻- ウォッチオークション」の全ラインナップを見てみると、ロレックスにこそ及ばないもののオメガがかなり豊作だった。個人的には今なおカルト的な人気を誇る“ウルトラマン”や世界初のアナデジクロノグラフウォッチである“クロノクォーツ”にも食指を動かされたが、せっかくの日本に焦点を当てたオークションということでこんなモデルをピックアップしてみた。それがこの1997年に日本限定で40本限定製造されたスピードマスター プロフェッショナル、通称“ゴールデン・パンダ”である。
金無垢のケースにパンダダイヤル、ブラックベゼルを持つこの“ゴールデン・パンダ”は、製造本数だけでなくそのルックスからも非常に希少性が高い。2016年のクリスティーズ オークションではシリアルナンバー17が2万〜3万ドルのエスティメートに対して3万5000ドル(当時のレートで約420万円)で落札、2023年に開催されたPHILLIPS時計オークション:XVIではシリアルナンバー1に25万〜55万香港ドルというエスティメートが設定され、最終的に30万4800香港ドル(当時のレートで約548万6000円)で販売されている。上記どちらの時計もダイヤルに一点の染みもない非常に保存状態のよいものであったが、今回出品される個体のコンディションもそれに勝るとも劣らない。ケースにほのかに見られる金焼けが美しく、目立つ傷もない。裏蓋の刻印もはっきりと残されており、“LIMITED EDITION”と“16/40”のシリアルがこのモデルの特別さを主張する。
特別なシリアルにこだわりがあるという人を除けば、今回の出品は希少な“ゴールデン・パンダ”を比較的お値ごろなプライスで落札できるチャンスだろう。付属品も、ボックスに加えて高島屋新宿店と書かれた国際保証書に取り扱い説明書、カードホルダーまで揃っている。個人的には、このモデルが2020年に惜しまれながらもその歴史に幕を下ろしたCal.1861を使用している点もポイントが高い。
しかしやはり選んだ1番の理由は、そのルックスだ。ベゼルのブラックインサートとゴールドケースの組み合わせは、グロッシーで大人っぽい。ブラックのアウタートラックも、ホワイトダイヤルの隙間を埋めて全体をグッと引き締めている。この取り合わせは、少なくとも僕が探した限りではこのモデルのみでしか確認できていない。エスティメートが同額のロット58“ウルトラマン”のほうが知名度は高いだろうが(最近ではムーンスウォッチでもオマージュしたモデルが登場している)、個人的にはその希少性の高さも含めこちらをプッシュしたい。
エスティメートは15万〜30万香港ドル(約276万〜552万円)です。ロット13の詳細はこちらから。
ロット46: クレドール GCBY997 − 松本 由紀
今回選んだのは、セイコーのラグジュアリーブランド、クレドールだ。トップロットや、価格の動きが気になるインディペンデントウォッチも気になったけれど、最終的には“機能はシンプルに、デザインは派手に”という自分のモットーに従い、いちばん好きなデザインの時計を選ぶことにした。
このクレドール Ref.GCBY997には、派手さと洗練さが見事に同居している。2針のシンプルな機能と、美しい陶磁器ダイヤルが組み合わさっていて、特別な存在感がある。
文字盤は流星螺鈿(らでん)をテーマにしており、漆黒の夜空に輝く流星群を思わせる。その幻想的な風景は、漆芸家・田村一舟氏の手によるもので、厚さわずか0.2mmにカットされた螺鈿細工がひとつひとつ丁寧に敷き詰められている。星空のように煌めく螺鈿細工は、色合いもすべて異なり、見ているだけで引き込まれる。この圧倒的な美しさと職人技が光る文字盤は、デザイン重視の自分にとって理想的だ。
搭載されているのは、厚さ1.98mmの超薄型手巻きムーブメント、Cal.68。1日にたったふたつしかつくれないほどの高度な技術が必要なムーブメントで、パーツは100分の1mm単位でカットされている。精巧な装飾が施され、職人たちの手で最高水準に仕上げられる。
このクレドールは、ほかに出品されているヴィンテージモデルやユニークピースとは違い、比較的新しい60本の限定モデルだ。ただ、時を重ねた名作に負けないほどの存在感があるのがいい。まさに自分のモットーを体現する1本で、コレクションに加える価値があると思ったのだ。
さらに、このロットは最低落札価格なし(ノーリザーブ)で提供される。競りが始まると、どんな金額であっても最高入札額がそのまま落札価格になる。そのため一瞬の判断がカギになるものの、思いがけない価格で手に入れるチャンスがある...入札してみようかな?
エスティメートは3万〜6万香港ドル(約59万〜118万円)です。ロット46の詳細はこちらから。
パテック フィリップが25年ぶりの新コレクション発表に続き、再び注目を集めている。今回の話題はブレスレット一体型のステンレススティール製スポーツウォッチである。2006年に登場したSS製Ref.5711 ノーチラスは、それ以来ヘッドラインを独占してきた。このモデルは10年にわたる長いウェイティングリスト、スーパーコピー時計製造終了、さらに1年限定のグリーンダイヤルやティファニーブルーのダイヤルで2度の“凱旋”を果たし、その終了プロセスがむしろ人気を加速させたといっても過言ではない。
Patek 5711/1500A
本日、時計コレクターたちの背筋を震わせる5711という文字列が再び響きわたることとなった。SS製Ref.5711が今回限りで復活したのだ(おそらく本当に最後の登場となるだろう)。今回復活を果たしたのは、手彫り装飾が施された特別仕様のRef.5711/1500Aである。これはパテック フィリップが1点ものとして製作し、2024年11月25日に開催されるチルドレン・アクション・ガラ(Children Action Gala)でオークションに出品される予定だ。
チルドレン・アクションは、1994年にスイスの起業家ベルナール・サブリエ(Bernard Sabrier)氏によって設立。ジュネーブを拠点とするこの財団は、世界中の貧困に苦しむ子どもたちの生活を改善することを使命としており、これまでに21万5000人以上の子どもたちを支援してきた。チルドレン・アクション・ガラは2年に1度開催される資金調達イベントであり、財団のプロジェクトを支援するための厳選されたオークションアイテムが出品される。そのなかには時折、きわめて重要な時計が含まれることがある。
Patek 5711/1500A
2005年以降、パテック フィリップはチルドレン・アクション・ガラのオークションで1点ものの特別な時計を提供し、チルドレン・アクションを支援してきた。これまでに提供された時計には、2007年のRef.6000T カラトラバ、2009年のRef.5180T スケルトン、2012年のRef.5131J ワールドタイム、2015年のRef.5396T 年次カレンダー、2018年のRef.5524T カラトラバ・パイロット・トラベルタイム、そして2022年のRef.5270T 永久カレンダー・クロノグラフなどがある。これらはいずれもチタンケースや、文字盤に特別な仕様が施された1点ものであり、チルドレン・アクション・ガラに出品されたパテック フィリップの時計が毎回驚異的な価格を記録するのも不思議ではない。それぞれのリファレンスのなかでも最高額となっており、特にRef.5270Tは2年前に970万スイスフラン(当時の相場で約14億3070万円)で落札された。今回のRef.5711/1500Aがこの名誉を手にするには、650万3500ドル(日本円で約9億9480万円)を超える必要がある。とはいえこれらの高額落札はすべてよい目的のために使われている。
今回のRef.5711が本当に最後のSS製モデルとなるのか、憶測が飛び交うことは間違いない。しかし時計そのものの魅力に目を向けると、パテック フィリップのふたつの側面が巧みに融合した実に興味深いモデルであることがわかる。今日の時計業界において、伝統的なスイススタイルの時計製作と、現代的なラグジュアリーウォッチの両方で成功を収めるブランドはほとんど存在しない。そのなかでパテックは、トップレベルでこの微妙なバランスを保ち続けている。たとえばRef.5260/1455R アクアノート・ルーチェ“レインボー”のような新境地を開拓しつつ、Ref.5160/500R レトログラード日付表示針付永久カレンダーのように、歴史を尊重したモデルも発表している。
5711/1500Aのケース、ベゼル、ブレスレット、ケースバックには“マオリ風”のモチーフが手彫りされている。この彫刻スタイルはニュージーランドのマオリ族をほうふつとさせるものであり、パテック フィリップにとって新しい試みであるが、その全体的なデザインは5160/500RやRef.6002R スカイムーン・トゥールビヨン、そして伝説のRef.5175R グランドマスター・チャイムにも通じるものがある。工芸の観点から見ると、このような手彫りの装飾はパテックがハイコンプリケーションモデルで何度も採用してきた技法である。今年のチルドレン・アクションのために製作されたこの5711は、手彫り装飾が施された最初のノーチラスであり、同社初のスポーツウォッチやSS製ウォッチとしても同様に、初の試みとなる特別なモデルである。
Patek 5711/1500A Cufflinks
パテック フィリップ Ref.205/9057A-010のカフリンクス。
このユニークノーチラスの文字盤はダークグレーで、わずかにブラウンのニュアンスが含まれている。また時計には手彫りが施されたカフリンクスも付属する。このダイヤルカラーは公式には表記されていないが、カフリンクスについては“チャコールグレーのサンバーストセンターとブラックグラデーションの縁”を特徴としていると記されている。
2024年のチルドレン・アクション・ガラは、財団設立30周年を祝う特別な夜となり、そのなかで5711/1500Aが史上最も高額で落札されたノーチラスとなる可能性に挑む。オークションはフィリップス・バックス&ルッソのオーレル・バックス(Aurel Bacs)氏がライブで進行し、全収益はチルドレン・アクションに寄付される予定だ。同財団の運営モットーである“最初の人権は、子ども時代を持つこと”に基づき、世界中の子どもたちの支援に活用される。
オーデマ ピゲは外装の内製化を推進してきた。そこにはダイヤルもむろん含まれ、優れた質感と多彩なカーリングで個性を確立している。
ファンにはお馴染みのメガタペストリーダイヤルが、かつてないスモークディープレッドに染まった。この「ロイヤル オーク オフショア ダイバー」の新色ダイヤルは、日本からの要望で生まれたのだという。中央付近では艶感があり、最外周ではほぼブラックとなるディープレッドのグラデーションは、ダークチェリーのよう。ダイビングスケールを刻む逆回転防止インナーベゼルも、同色のツートンでコーディネート。新たなダイヤルの色表現に挑んだ日本限定モデルは、ケースはホワイトゴールド製、ベゼルはブラックセラミック製とし、リューズトップと針、インデックスにはピンクゴールドをあしらうことで、華やかなラグジュアリー感と頑強な印象との融和が巧みに図られた。
オーデマ ピゲスーパーコピー代引きロイヤル オーク オフショア ダイバー 42mm Ref.15720CN.OO.A002CA.02 984万5000円(税込) 日本限定100本
18KWGケース&ブラックセラミックベゼル。42mm径、14.3mm厚。30気圧防水。自動巻きCal.4308(2万8800振動/時)、パワーリザーブ約60時間。
オーデマ ピゲの色表現に息づく哲学とは
1993年に生まれた「ロイヤル オーク オフショア」は、1998年のチタン採用を皮切りに、オーデマ ピゲによる素材の実験場として機能してきた。その後、セラミック、ラバー、フォージドカーボンなど、彼らが用いた素材は多岐に渡る。それはダイヤル表現においても同じだ。1996年にはレッド、イエロー、グリーン、パープルといった、メゾンにそれまでなかったビビッドなカラーリングも登場。2001年にはエンボス加工が初導入され、現在のメガタペストリーが実現された。
現行の37mmの“オフショア”のダイヤルパターンには、ギヨシェによるグランドタペストリーとエンボス加工を施したレディタペストリーを展開。またライトブルーやサーモンピンクといった、かつてあったビビッドな色調が復活する兆しを見せている。一方で、楽器用アンプのイコライザーを模した“ミュージック エディション”のような大胆なダイヤルも登場している。多様なダイヤル表現は、内製化を進めた結果、実現することが可能になった。一部の特殊なダイヤルを除いて大半が自社製となったことで、コストを考慮することなく、納得が行くまで試作を繰り返すことができるようになったからだ。今回の日本限定のスモークディープレッドダイヤルでも、かなりの数の試作品が作られたという。
グラデーションダイヤルは近年、その数を増やしており、バーガンディダイヤルもまた然り。しかし、この日本限定モデルほど深い赤が黒に移ろうような色表現は今までなかった。これをダークチェリーのようだと前述したが、実は黒みを帯びた赤は飛鳥時代から高貴な色として使われてきた色で、深緋(こきひ)、黒緋(くろあけ)などと呼ばれる伝統色である。それをグラデーションに仕立てることで、日本人が好む控えめな華やかさが表現された。
“オフショア”を含むロイヤル オークコレクションのダイヤルは、長らくメッキやガルバニックによる着色が多用されてきた。前に述べた、1996年に登場したビビッドカラーのダイヤルは数少ない例外で、ラッカー仕上げであった。ラッカーが少なかったのは、タペストリー装飾の立体感を損なうからであったが、日本限定の“オフショア ダイバー”もそうであるように、近年はラッカーによる色表現が盛んに試されるようになっている。
オーデマ ピゲによれば、どのラッカーダイヤルも8層以上塗料を重ねているとか。グラデーションとなれば、層の数はさらに増す。それでもなお、メガタペストリーの繊細で上質な仕上げが見て取れるのは、予想するにエンボス加工の深さをコントロールしているからであろう。これも内製化の、賜物の1つだ。
そしてすべてのカラーダイヤルは、酸化や紫外線による色褪せを防ぐためラップ塗装を施している。しかしその厚みは、おそらくかなり薄い。他社では、凹凸模様を埋めるほどにラップ塗装を厚く施す。インデックスやロゴをプリントする平滑面を得るためだ。しかし“オフショア”は、植字インデックスである。またAPマークを配する部分と、“オフショア ダイバー”だけに配される300m/1000ft AUTOMATICのプリント文字のスペース分は、最初から平滑に作られている。これによってグランドタペストリーを埋めるほどラップ塗装を厚くする必要がなく、美しい装飾と色表現を邪魔しない。
ロイヤル オーク オフショア日本限定を見る
優れた文字盤を作るには自社で完璧にコントロールする必要がある
来年、創業150周年を迎えるオーデマ ピゲは、長い歴史において顧客のオーダーに応えた1点もののダイヤルを作り続けてきた。優れたダイヤルメーカーとタッグを組み、また2000年以降は内製化を進め、さまざまな表現が試みられてきた。内製化のきっかけとなったのは、2000年のリシュモングループによる、ダイヤル会社スターン・クレアシオン社の買収劇だった。同社とオーデマ ピゲとの長い信頼関係が、ここで崩れ、その後10年をかけてダイヤル内製化の設備と人材を整えたのだ。その中には、プチタペストリーを織り成すギヨシェマシンと、その技術者も含まれる。
幸いにも、メゾンにはダイヤルメーカーと協業した時代の膨大な資料が残っていた。そこからダイヤル製造のノウハウと、色やデザインに関する哲学を継承。また内製化によって前述したエンボス加工、さらにPVDも導入された。
今年登場した限定モデル「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー “ジョン・メイヤー”」の、方向・サイズがランダムな無数の突起が光を乱反射するクリスタルスカイダイヤルは、エンボス加工とPVDによる産物である。昨年、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」初のSSモデルで試みられたエンボスダイヤルは、ギヨシェ職人ヤン・フォン・ケーネルの手彫りを原型とする。またアニタ・ポルシェのエナメル工房にダイヤル製作を委ねた限定モデルも生まれている。
内製化と、外部の才能とが組み合わされ、メゾンのダイヤル表現は無限に広がる。そしてユニークピースのオーダーや各国からの特別仕様の要望に、今も柔軟に応えている。
“オフショア”のレギュラーモデルにおいても、2021年に、新たなメガタペストリーのモチーフが生まれている。各スクエアを十字の“ミニアーム”でつなげ、さらに縦方向のスネイルパターンを加えて、模様を一段と複雑にしたのだ。この新メガタペストリー誕生に伴い、グラデーションも初めて試みられた。装飾とカラーリングの進化によって、表情は一層ニュアンス豊かになった。
上の2つは、新メガタペストリーとグラデーションとを受け継ぐ新作。右のスモークブルーも、左のスモークブロンズもラッカー仕上げであり、繊細な色の移ろいを表すために10層以上が塗り重なる。しかしスクエアよりも浅く繊細な縦方向のスネイルパターンがクッキリと目にできるのが、見事である。ダイヤルの内製化を進めて、およそ四半世紀。オーデマ ピゲのラッカー技術は、驚くほどの高みに至った。
AP オーデマ ピゲ公式サイトを見る
ロイヤル オーク オフショア オートマティック 37mm
オーデマ ピゲはまた、ガルバニックやメッキ技術も研鑽してきた。前述したように、ロイヤル オーク ファミリーのダイヤルに多用してきたからである。その技術が、上の新作「ロイヤル オーク オフショア オートマティック」に結実した。
ケース径は37mm。ダイヤルは、グランドタペストリーのギヨシェであり、その表面は針が写り込むほどに完璧なポリッシュに仕上げた上から、ロジウムメッキを施している。しかも元来は銀白色であるロジウムが、ほのかなアイボリーの色合いを浮かべているのが、不思議だ。その技術的なアナウンスは一切されていないが、鏡面状に輝くアイボリーダイヤルは、これまでになかったまったく新しい表現である。
グランドタペストリー装飾の上に載るAPロゴは、植字。ピンクゴールド製の針と植字インデックスには、白いスーパールミノバが載せられ、淡いアイボリーと絶妙にカラーコーディネートされている。ダイヤルも針もインデックスも光に輝くが、色のコントラストで視認性は失われない。インナーベゼルはグレーとし、象徴的な八角形ベゼルをグレーラバーでコートして、ダイヤルとは一変、色と輝きをなくしたことで全体をグッとシックな雰囲気に寄せた。
オーデマ ピゲのダイヤル表現は、時計としての機能を失うことなく美を追求し、身に着ける人が主役になるよう配慮されるのだ。
ジャガー・ルクルト、ロンジン、チューダーなどのブランドで見られるように、ヴィンテージモデルにインスパイアされたデザインが今人気沸騰中だ。特にオメガは過去の素晴らしいデザインアーカイブを生かすことに優れている。オメガが2014年に発表したシーマスター 300 マスターコーアクシャルは、間違いなく最も期待された作品のひとつであり、ノスタルジアの波に乗るだけでなく、ダイバーズウォッチの揺るぎない人気も獲得している。レトロなスタイリングとサイズ感、そしてオメガの最新技術が完璧に融合したこのモデルは、皮肉屋な時計ファンをも虜にしてやまない。我々は最近(掲載当時)、長期にわたるレビューのため、米国に初めて届いたシーマスター 300を手に入れ、その性能を確認するためかなり過酷な条件下でスキューバダイビングを敢行した。
この新しいモデルを詳しく潜り込む前に、その系譜を振り返ってみる価値があるだろう。1957年、この最新モデルにインスピレーションを与えた初代シーマスター 300までさかのぼろう。
すべての始まり: シーマスター 300(1957年)
初代シーマスター 300 (CK2913)
オメガスーパーコピー代引き1950年代半ばはスキューバダイビングブームの時代であり、時計メーカーもそれに応えるべくタイムピースを続々と発表した。もちろん1930年代には、パネライがロレックスのケースに懐中時計のムーブメントを組み込み、イタリア海軍のフロッグマンに着用させたが、ねじ込み式リューズと回転式経過時間ベゼルを備えた専用ダイバーズウォッチとしては、ブランパンが1953年に発表したフィフティ ファゾムスが初出である。翌年にはロレックス サブマリーナーとゾディアック シーウルフが登場し、ほかのメーカーもすぐに追随した。1957年、オメガはレースドライバー、科学者、ダイバーのために設計されたスピードマスター、レイルマスター、シーマスター 300というスポーツウォッチの “マスター”トリオを発表した。最も古い血統を持つ後者(Ref.CK2913)の初代シーマスターが発表されたのは1948年である。しかし、このシーマスターは水中での使用を想定して作られたとは言い難かった。その名に似つかわしくない小型のドレスウォッチだったからだ。
シーマスター 300は、サブマリーナーに対するオメガの回答であり、それ以来その役割を担っている。ただ名前は少し誤解を招くかもしれない。というのもデビュー当時、この時計の正式な防水性能は200mまでしかなかったからだ(オメガによれば、試験装置の限界だったそうだ)。ブロードアロー針、薄いコインエッジベゼル、ダイヤルの筆記体など、サブマリーナーよりもハンサムな時計であったことは間違いない。直径39mmのケースと愛らしい形状の針は、同時代のスピーディやレイルマスターと共通で、シーマスター 300には頑丈なオメガ自動巻きムーブメントのCal.501が搭載されていた。これら最初期のオメガのダイバーズウォッチは、同じヴィンテージのサブマリーナーよりも希少価値が高く、コレクターも多い。アクリル製のベゼルインサートは割れやすく、しばしば交換された。今思えば、この時計は素敵だったが、サブマリーナーのような人気の持続力はなく、おそらく60年代まで使い続けるにはやや“可憐”過ぎたようだ。初代シーマスター 300は、新世代に取って代わるまで、7年間のロングランを記録した。
60年代と英国海軍仕様モデル
1964年、オメガはRef.165.024(デイトなし)と166.024(デイトあり)の新生シーマスター 300を発表した。この時計は先代に類似していたが、古風なブロードアロー針や薄いベゼルは廃止され、ケース径は当時としては巨大な42mmに拡大された。この時計は、より現代的な雰囲気をまとった存在となった。幅広のベゼルは重厚感があり、ミニッツマーカーが全周にわたって配置されている。針もより頑丈になり、いわゆるソード型針が採用された。夜光は大量に塗布され、ダイヤルマーカー、10分ごとのベゼルマーク、そして巨大な針はすべて、ナイトダイビングの視認性を確保するため松明のごとく輝いた。ケースは、CK2913のストレートラグを廃し、進化したスピードマスターラインと共通のねじれた“ボンベ”ラグに変更され、リューズガードが採用された。第2世代のシーマスター 300はさらに大きな成功を収め、スポーツダイバーズとしてだけでなく軍用時計としても人気を博した。
シーマスター 300 Ref.165.024。photo credit: 1stdibs
英国海軍モデルは長いあいだコレクターに愛されてきた。最も有名なのは、女王陛下のフロッグマンたちに数十年にわたって支給された伝説的なロレックス サブマリーナー“ミルサブ”である。しかし、ミルサブを民間用と区別する特徴であるソード型針とフルマークのベゼルは、ロレックスが考案したものではなく、実はオメガからコピーしたものである。初期のRef.5512/5513サブマリーナーが英国の操舵手たちに愛用された一方で、60年代半ばには、オメガの新しいシーマスター 300が優れた潜水用ツールとみなされ、英国海軍のダイバー用として採用された。これらの時計は、溶接されたストラップバー、ケースバックの刻印、トリチウム夜光の使用を示すダイヤルの“サークルT”表記によって区別される。後期のバージョンには、12時位置のダイヤルマーカーに特大の三角形があしらわれている個体もあるが、これは民生モデルにも採用された特徴である。この軍用シーマスター 300は、ロレックスのミルサブよりも希少だが、その理由は支給期間がわずか2、3年であったからである。しかし価格はそれほど高くないため、優れたヴィンテージウォッチの選択肢となる。
シーマスター 300が英国海軍のダイバーに支給されたのは、再びロレックスに取って代わられる前の数年間だけで、後者は視認性確保のため前者の針とベゼルをコピーせざるを得なかった。ロレックスが優れていたのは防水性で、これは強力なツインロックねじ込み式リューズのおかげだった。リューズ機構はオメガのアキレス腱だった。オメガは“ナイアード(ギリシャ語で“水の精”の意)”と呼ばれる圧力密閉式リューズの実験を行っていた。理論的にはいいアイデアだったが、実装段階では信頼性が低く、ナイアード式リューズは圧力が弱い浅い水深で浸水しやすい傾向があった。オメガがレストアしたバージョンは、通常ねじ込み式リューズが取り付けられていた。
第2世代のシーマスター 300は1970年まで生産が継続されたが、ファンキーな形状、実験的なベゼル、向上した防水性など、より時代の要請にマッチした時計、いわゆる“ビッグブルー”シーマスター クロノグラフ、伝説的なプロプロフ、角ばったSHOM(海軍水路海洋局を意味する刻印がされたシーマスター200)などに取って代わられ、生産終了となった。CK2913や165.024のようなクラシックなラインを失い、初期のシーマスターとの類似性は完全に失われた。このデザインの変化とリファレンスナンバーの急増は、問題を抱えるブランドの歴史を物語っていた。オメガは1970年代の暗黒の時代に生き残るために戦っていたのである。もしオメガがシーマスター 300を1960年代と同じように生産し続けて少しずつ改良を加えていたら、かつてのライバルであるロレックス サブマリーナーと同じように、人気のある憧れの時計になっていただろうと考えるとおもしろい。
現代のシーマスターシリーズ
1970年以降、シーマスター 300の名前はカタログから消え、オメガのダイバーズウォッチは単にシーマスター プロフェッショナルと呼ばれるようになった。90年代後半になるとジェームズ・ボンドシリーズがリブートされ、シーマスターが再び脚光を浴びるようになった。新しいボンド役、ピアース・ブロスナン(Pierce Brosnan)氏に新しい時計を与えるため、007のコスチュームデザイナーであるリンディ・ヘミングス(Lindy Hemming)氏はブルーダイヤルにスケルトンのソード型針をあしらったオメガ シーマスターを選んだ。ヘミングがほかの選択肢のなかからシーマスターを選んだのは、ボンドが所属していたイギリス海軍とオメガの歴史が大きく関係している。ヘミングス氏によれば、“私が20代のころ、当時の軍人や海軍関係者たちと知り合いになったが、彼らはみなオメガを愛用していた”という。この時計はオメガに露出の機会をもたらし、シーマスターの人気を再び不動のものにした。
ボンドが着用していたのはブルーダイヤルのシーマスターだったが、おそらくボンドが持つべきだったのは同時期に製造されたRef.2254だろう。そのリファレンスは1960年代のシーマスター 300に近い外観で、ブラックダイヤル、同じソード型針、フルマークベゼルを備えていた。それでも、ブロスナン演じる派手なボンドは90年代を通じてブルーモデルを着用しており、007が元海軍軍人にふさわしいシーマスターを着用したのは、ダニエル・クレイグがボンドを引き継いだ2006年になってからだった。シーマスター プラネットオーシャンは、すぐさまかつてのシーマスター 300と比較された。ダイヤルのマーク、ベゼル、針、そしてオメガの特徴であるボンベラグがミックスされ、オメガの新規購入層やシーマスター 300のかつての栄光への回帰を切望する人々にアピールした。この時計はオメガにとって大ヒットをもたらしたが、純粋主義者にとっては、大きすぎたり派手すぎたりして、まだしっくりこないという感があった。だからこそ、2014年に発表されたシーマスター 300 マスターコーアクシャルは、まさしく待ち望まれていたものだ。それは40年かけてじっくり作られた時計のように感じられた。そしてオメガはそれを正しく世に送り出した。
シーマスター 300 マスターコーアクシャル
動作中のシーマスター 300 マスターコーアクシャル。Photo credit: Christopher Winters for HODINKEE
深さ42mほど水中の沈没した船の石炭貯蔵庫の上を旋回していたが、どうしても手首の時計に目が行ってしまった。3℃の水温によって窒素中毒が増幅されたのかもしれないが、私は突如として閃いた。これほどタイムトラベルに近づいたことはない。ここで、スペリオル湖に70年間眠っていた船を最初に発見したダイバーたちと同じように眺めているのだ。手首に機械式時計をつけ、貴重な潜水時間を計測しながら、無重力状態で遊泳する…そう、まさに1957年であったかのように。
オメガは人気の第2世代シーマスター 300を再創造するのではなく、さらにさかのぼり、初代モデルに戻ったのだ。スピードマスター“ファースト・オメガ・イン・スペース(FOIS)”で行ったように、オメガは1957年に発売された時計に忠実にオマージュを捧げている。ストレートラグ、リューズガードなし、薄いベゼルインサート、ブロードアロー針などがその象徴だ。しかし完璧なレプリカではなく、シーマスター 300マスターコーアクシャルにはいくつかのスマートな改良が加えられている。
質感の高いマットなダイヤルには、カットアウトされたマーカーがあしらわれている。Photo credit: Gishani Ratnayake for HODINKEE)
スティール製ケースはオリジナルの39mmから41mmとなった。前述のスピーディ“ウォーリー・シラ ー”は39mmサイズを忠実に再現したが、41mmはダイバーズウォッチとしてはほぼ完璧なサイズだ。ベゼルはもちろん、割れやすいアクリル製ではなく、オメガお得意のリキッドメタル製である。このアモルファス金属合金は耐食性と耐摩耗性に優れ、光沢のある外観は古いアクリルのような外観を巧みに再現している。風防は当然サファイア製だが、初代のようなドーム型形状となっている。夜光はトリチウムの代わりにスーパールミノバが使用されているが、まるで60年ものあいだ、引退したダイバーの引き出しのなかで熟成されていたかのような完璧なゴールドを帯びたフェイクパティーナだ。ダイヤルはマットなブラックで質感が高く、それがさらに経年劣化しているように見えるが、斜めから眺めると素晴らしい。CK2915のような小さな三角形のダイヤルマーカーは、ダイヤル上にプリントされているのではなく、ダイヤル下の層に挟み込まれている。さらに特筆すべきは、オメガのヴィンテージモデルへのオマージュとして、このモデルではデイト表示が省かれていることだ。
オメガのトレードマークであるケースバックにエングレービングされたシーホース(私は希望していたが)の代わりに、シーマスター 300は幅広なサファイアのシースルーバックを備え、時計のフルネームの一部である“マスターコーアクシャル”ムーブメントのCal.8400がのぞいている。透明な裏蓋からは、放射状の美しい装飾が施された自動巻きムーブメントを眺めることができる。また同ムーブメントはシリコン製ヒゲゼンマイを採用しており、軟鉄製のインナーケースを使わずとも1万5000ガウス以上の耐磁性能を実現している。この高い耐磁性をさりげなく誇示している点も特徴だ。耐磁性に加え、このムーブメントはツインバレルによる約60時間のパワーリザーブ、コーアクシャル脱進機とフリースプラングテンプを備え、クロノメーター認定まで受けている。また時計をハックしたり分針を動かしたりすることなく、時針を1時間単位で進めたり遅らせたりできる、気の利いた“タイムゾーン”機能も備えている。初期のオメガのコーアクシャルムーブメントは、ETA2892を改良したものだったが、Cal.8400はオメガの研究開発の集大成であり、現在最も優れた自動巻きムーブメントのひとつとして数えられる。
Photo credit: Christopher Winters for HODINKEE
ムーブメントとベゼルだけでなく、ブレスレットもまた1957年当時のデザインよりも、2014年の現代的な仕様に仕上がっている。無垢材のリンクを使用した3連ブレスレットには、折りたたみ式のプッシュボタン式デプロワイヤントがあり、隠し延長機能が付いている。クラスプの内側には“PUSH”と書かれた小さなレバーがあり、ブレスレットを約2.5cmほど簡単に伸ばすことができる。しっかりとつくり込まれたブレスレットはデザインも優れているが、ロレックスのグライドロック・クラスプ機構にはおよばない。私はプッシュボタン式のクラスプがあまり好きではないが、その主な理由は、何年も前にダイビング中にプラネットオーシャンのクラスプが突然開いてしまったことから不安感を抱くようになったからだ。エクステンションは厚手のウェットスーツの袖をとおすには十分な長さがなく、ドライスーツの袖口に時計を収めることができたのは、ブレスレットの長さをまったく調整しなかったからだった。ブレスレットのセンターリンクはポリッシュされており、ドレッシーでヴィンテージな雰囲気を醸し出しているが、正直ツールウォッチとしては少し不釣り合いに感じた。しかし、プールサイド以外で着用する予定のない購入者にとっては、私のブレスレットに対する不満はほとんど気にならないだろう。
パテナイズされたトリチウムの外観にもかかわらず、夜光は明るく、現代的なスーパールミノバである。Photo credit: Gishani Ratnayake for HODINKEE
オメガはシーマスター 300 マスターコーアクシャルに、SS、チタンにブルーのダイヤルとベゼル、チタンとセドナゴールドのツートンカラー、セドナゴールド無垢など、いくつかのバリエーションを展開している。私のお気に入りは私がテストしたものと同じ、神とクストーがダイバーズウォッチに求めたクラシックなSSモデルだ。ソリッドリンクのブレスレットでは少々重かったが、オメガは独自のNATOストラップの販売も計画している。それは間違いなく高品質で高価格のものになるだろう。私はしばらくテスターをNATOに装着してみたが、その見た目はデスクダイバーではなく、むしろ本物のクリアランスダイバーのように見えて素晴らしかった。
実用上の性能はどうだったのだろうか? 氷点下スレスレの深い海で4日間、8回のダイビングを敢行したが、クロノメーター級の精度を維持した。ベゼルはグリップ力があり、5mm厚のネオプレーン製手袋をはめた手で回してもその動作は素晴らしかった。視認性は申し分ないが、1964年にオメガがソード型針に切り替えた理由が分かった。ブレスレットは、今回もサイズ調整せずに使用したためサイズが合わなかったが、腕にぴったり合ったサイズに調整した場合、袖の上から使用するにはクラスプの延長が足りなかったかもしれない。全体としてこの時計はよくできており、60年前のデザインにもかかわらず今でも立派な潜水時計である。
リキッドメタルのベゼルインサート。Photo credit: Gishani Ratnayake for HODINKEE
シーマスター 300 マスターコーアクシャルには“悪い”点を挙げることはほとんど不可能に近い。フェイクパティーナのマーカー(私は気に入っている)やポリッシュ仕上げのセンターリンク(私は好まない)、シースルーバック(私はソリッドバックのほうが好み)が気に入らない人もいるだろう。しかしこれらはすべて些細な違いである。この時計はホームラン(クリケットファンにとっては“6”)に限りなく近い。ジャガー・ルクルトのヴィンテージトリビュートモデルやチューダー ブラックベイと同じ条件を満たしているが、耐磁ムーブメントを搭載することでさらに1歩進んでいる。6600ドル(2014年当時の定価。日本の定価は税込74万8000円)と決して安くはないが、かつてのライバルであるサブマリーナーよりも安価でありながら、同等の品質を備えている。レトロなデザインは、大衆よりも歴史を知るごく一部の時計マニアに評価されるものであり、プラネットオーシャンに引かれる人はまだ多いだろう。しかしオメガは自らの歴史を尊重し、それを効果的に活用することを好むブランドのひとつである。シーマスター 300 マスターコーアクシャルは、その最新の証拠である。
ブライトリングは、プレミエ、ナビタイマー、クロノマットの3つの人気モデルに、同社初の永久カレンダークロノグラフムーブメントを搭載し、発表した。これらのモデルはすべてブライトリング専用の永久カレンダームーブメントである新Cal.B19によって駆動する。このムーブメントは、ブランドにとって技術的に大きな進歩であり、同社のマニュファクチュールムーブメントにおける15年の進歩を象徴している。
上から順に、プレミエ B19 ダトラ 42、ナビタイマー B19 クロノグラフ 43 パーペチュアルカレンダー、スーパークロノマット B19 44 パーペチュアルカレンダー。いずれも140周年記念の限定モデルである。
Cal.B19はブライトリング初の永久カレンダークロノグラフムーブメントであり、2009年のCal.01で始まった同社のマニュファクチュールムーブメントの系譜に基づいている。それ以来、ブライトリングはGMTやスプリットセコンドなどのキャリバーを導入し、コレクションを強化してきた。Cal.B19は、フルカレンダー(月・日・曜日表示)とムーンフェイズを搭載した独自の永久カレンダームーブメントで、約96時間ものパワーリザーブを誇り、2万8800振動/時(4Hz)で動作する。また同ムーブメントはCOSC認定を受けており、クロノグラフはコラムホイールと垂直クラッチを採用している。これによりクロノグラフの精密なスタート、ストップ、リセットが可能となる。22Kゴールド製の自動巻きローターには、スイスのラ・ショー・ド・フォンにあるブライトリングの歴史的な工場が刻まれている。
ブライトリングスーパーコピー時計 代引きは創立140周年を記念して、Cal.B19を搭載した3つの限定モデルであるプレミエ、ナビタイマー、クロノマットを発表した。共通して18Kレッドゴールド(通常は5Nゴールド)のケースを備えており、各140本限定、メーカー希望小売価格は各777万7000円(税込)となっている。さらにこれらの限定モデルは、サファイア製のシースルーバックをとおしてCal.B19を鑑賞できるようになっている。
プレミエ B19 ダトラ 42は、42mmの直径と15.6mmの厚さを持ち、ラグからラグまでの長さは50mmとなっている。RG製ケースのほか3つの限定モデルには同じムーブメントが搭載されているため、ダイヤルレイアウトも共通している。3時位置のインダイヤルには日付とクロノグラフのミニッツカウンター(内側に配された目盛り)が、6時位置には月とうるう年表示(赤い針)が表示される。そして9時位置のインダイヤルには曜日表示とスモールセコンドが表示され、12時位置にはムーンフェイズが配置されている。このデザインはミッドセンチュリーのインスピレーションに基づいており、ムーンフェイズにはスタイリッシュな月面の人が描かれている。ダイヤルはブラックでアラビア数字のインデックスが施され、ブラックのインダイヤルには同心円状の装飾が施されている。外周にあるゴールドの秒目盛りはブラッシュ仕上げだ。ストラップはブラックのアリゲーターで、ゴールドのフォールディングバックルが付属する。
ナビタイマー B19 クロノグラフ 43 パーペチュアルカレンダーは直径43mm、厚さ15.6mm、ラグからラグまでの長さは49mmで、プレミエとほぼ同じサイズである。ダイヤルレイアウトもプレミエと類似しているが、これはケースと合わせたRGのダイヤルとインデックスが特徴となっている。またナビタイマーならではのクラシックな計算尺付きベゼルが装備されており、ムーンフェイズはよりリアルな月の描写が施されている。これはナビタイマーがもともと科学的なツールとして設計されたことへのオマージュともいえる。
最後にスーパークロノマット B19 44 パーペチュアルカレンダーについてだ。RGのケースは直径44mm、厚さ15.3mm、ラグからラグまでの長さは53.5mmである。クォーツ時計が主流だった1983年、ブライトリングはその流れに逆らってクロノマットを発表した。この時計はイタリアのフレッチェ・トリコローリ(アクロバット飛行部隊)のために設計された自動巻きモデルである。ベゼルには15分ごとに刻まれた特徴的なライダータブがあり、ひと目でそれと分かる。数カ月前にブライトリングのヴィンテージウォッチの巡回展を見に行った際、ブランドのヘリテージ部門責任者であるジャンフランコ・ジェンティーレ(Gianfranco Gentile)氏は、イタリアで育った彼にとってクロノマットがすべてであったと語っていた。
このシンプルなコメントがクロノマットに対する考えを改めさせた。この時計はよくも悪くも1980年代の象徴だ。少し目立つデザインだが、そのライダータブやルーローブレスレットによって多くの人がすぐに識別できる存在となっている。今回のクロノマット パーペチュアルクロノは、そのルーローブレスレットにインスパイアされたラバーストラップで提供される。
最後に、各アニバーサリー限定モデルはスエード張りの木製ウォッチボックスに収められ、収納用の引き出しやトラベルポーチ、さらには特別版の書籍『Breitling: 140 Years in 140 Stories(リッツォーリ社、2024年)』が付属する。この書籍はオーナーが購入したアニバーサリーモデルの画像が表紙にデザインされた特別版となっている。
我々の考え
Cal.B19はブライトリングにとって技術的に大きな進歩であり、これを3つの異なるデザインで展開するのは理にかなっている。プレミエはまるで、大きな現代版ユニバーサル・ジュネーブ トリコンパックスのように純粋なミッドセンチュリースタイルのようだ(パーペチュアルカレンダーとして仕上げられているが)。一方でスーパー クロノマットは、スケルトンダイヤルによって現代的で最先端のデザインが強調されている。そしてもちろん、ブランドの象徴であるナビタイマーにもこれは搭載されているのだ。それぞれのモデルは異なるアプローチで仕上げられており、各モデルラインの目的に忠実なデザインがなされている。どのモデルも大振りだが過度に主張しすぎることはなく、まさにブライトリングのパーペチュアルカレンダークロノグラフに求められる特性を体現しているといえるだろう。
一方でパテック フィリップを除くと、永久カレンダークロノグラフの競合はあまり多くない。IWCも過去に同様の価格帯で永久カレンダークロノグラフをリリースしており、さらにハブリング²は約2万5000ドル(日本円で約360万円)でSS製の永久カレンダークロノグラフを製造している(驚くべきことにハブリング²は3万ドル、日本円で約430万円未満でラトラパンテをつくっている)。
ブライトリングがSS製の永久カレンダークロノグラフを展開するのをぜひ見てみたいと思う。そして、それが140周年記念のあとに登場するかもしれないという期待もある。
確かにプレミエの限定モデルを見たとき、ユニバーサル・ジュネーブのトリコンパックスを思い浮かべずにはいられなかった。またブライトリングが最近このブランドを買収したことも頭をよぎった。今年の初め、CEOのジョージ・カーン(George Kern)氏が私たちに語ったように、復活したUG(ユニバーサル・ジュネーブ)からの製品発表はまだ少し先の話である。しかしもしプレミエのようなリリースが、ユニバーサル・ジュネーブからのよりエレガントなモデルの基礎を築いているのだとしたら、たとえそれがもっと小さく厚さ15mm以下のモデルであっても、私は文句は言わないだろう。
だが今のところ、ブライトリングがその印象的な製造能力をさらに強化し続けているのは素晴らしいことだ。
基本情報
ブランド: ブライトリング(Breitling)
モデル名: プレミエ B19 ダトラ 42 140周年アニバーサリー(Premier B19 Datora 42 140th Anniversary)
型番: RB19401A1B1P1
直径: 42mm
厚さ: 15.6mm
ラグからラグまで: 50mm
ケース素材: 18Kレッドゴールド
文字盤: ブラック
インデックス: アプライドアラビア数字
夜光: あり、スーパールミノバの時・分針
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ブラックアリゲーター、18Kゴールド製フォールディングバックル
モデル名: ナビタイマー B19 クロノグラフ 43 パーペチュアルカレンダー 140周年アニバーサリー(Navitimer B19 Chronograph 43 Perpetual Calendar 140th Anniversary)
型番: RB19101A1H1P1
直径: 43mm
厚さ: 15.62mm
ラグからラグまで: 49.07mm
ケース素材: 18KRG
文字盤: 18KRG
インデックス: アプライドバー
夜光: あり、スーパールミノバの時・分針
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ブラックアリゲーター、18Kゴールド製フォールディングバックル
モデル名: スーパークロノマット B19 44 パーペチュアルカレンダー 140周年アニバーサリー(Super Chronomat B19 44 Perpetual Calendar 140th Anniversary)
型番: RB19301A1G1S1
直径: 44mm
厚さ: 15.35mm
ラグからラグまで: 53.5mm
ケース素材: 18KRG
文字盤: グレースケルトン、ブラックサファイア製クロノグラフカウンター
インデックス: アプライドバー
夜光: あり、スーパールミノバの時・分針
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ルーローブレスレットから着想を得たラバーストラップ、18Kゴールド製フォールディングクラスプ
ムーブメント情報
キャリバー: ブライトリングB19
機能: 時・分・スモールセコンド、永久カレンダー(月・日・曜日・うるう年表示)、ムーンフェイズ、クロノグラフ(30分積算計)
直径: 30mm
厚さ: 8.53mm
パワーリザーブ: 約96時間
巻き上げ方式: 自動巻き(22KRG製ローター)
振動数: 2万8800振動/時
部品点数: 374
クロノメーター: あり、COSC認定
追加情報: コラムホイール、垂直クラッチ式クロノグラフ
価格 & 発売時期
価格: 各777万7000円
限定: あり、世界限定各140本
今回は濃いブルーのダイヤルとベゼルがあしらわれたブティックエディションである。
スペックや技術的な詳細は、既存のブラックベイ クロノから変更されていない。つまり、41mmのスティールケースで厚さは14.4mm、ラグからラグまでの長さは49.8mmである。ベゼルはアルミニウム製インサートを備えた固定式で、防水性能は200m。そして“ブルーブティック”には、チューダー独自のT-Fitを搭載したSS製の5連ブレスレットが装着されている。
内部には、スーパーコピー時計 代引き過去のブラックベイ クロノでも採用されていたMT 5813ムーブメントが引き続き搭載されている。これはブライトリング B01をベースにした2万8800振動/時(4Hz)の、コラムホイール式垂直クラッチ自動巻きムーブメントだ。また約70時間のパワーリザーブ、6時位置の日付表示、そして45分積算計のクロノグラフも備えている。
ブラックベイ クロノ ブルー ブティックエディションの定価は79万2000円(税込)で、世界各地のチューダーブティックで販売される予定である。
我々の考え
誤解を恐れずに言えば、もし“ブルーのブラックベイ クロノは存在するか?”と聞かれたら、答えを確信するのに5秒もかからなかっただろう。それほどクラシックなカラーであり、チューダーが新作を発表する際に早い段階でよく使用する色だからだ(ヘリテージ クロノ ブルー、ブラックベイ ブルー、ペラゴス FXD MN21など)。それほどまでにチューダーのラインナップでは定番のカラーだが、今回ブラックベイ クロノのブルーバージョンが登場するのは初めてである。そしてとても素晴らしい仕上がりだと僕は思う。ブラックよりも落ち着いていて、ホワイトダイヤルよりも控えめであると感じる。
要するに今回の話はこうだ。ブラックベイ クロノは基本的に同じだが、今回はブルーバージョンが登場したということ。色合いはミディアムダークでサンレイ仕上げ、シルバーのインダイヤル、そしていくつかの小さな赤いアクセントが特徴だ。全体として、BBクロノの外観は予想どおりとはいえ素晴らしいもので、スティールとブルーの組み合わせを引き締めるテーパードされた5連ブレスレット(T-Fit付き)が特に気に入っている。
なお(ジュネーブ・ウォッチ・デイズ開催中の)今週は、これが数日間のうち発表される唯一の新作ではないので、引き続き注目して欲しい。
基本情報
ブランド: チューダー(Tudor)
モデル名: ブラックベイ クロノ “ブルー” ブティックエディション(Black Bay Chrono "Blue" Boutique Edition)
型番: M79360B-0002
直径: 41mm
厚さ: 14.4mm
ラグからラグまで: 49.8mm
ケース素材: 316Lステンレススティール
文字盤: ブルー
夜光: あり、針とインデックス
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: “T-fit”クイックアジャストクラスプ機能付きの5連SSブレスレット
tudor chrono blue
ムーブメント情報
キャリバー: チューダーマニュファクチュールMT5813
機能: 時・分・スモールセコンド、日付表示、クロノグラフ(45分積算計)
直径: 30.4mm
厚さ: 7.23mm
パワーリザーブ: 約70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 41
クロノメーター: あり、COSC認定(さらにチューダーが日差-2~+4秒の精度を保証)
追加情報: 非磁性シリコン製ヒゲゼンマイ
価格 & 発売時期
価格: 79万2000円(税込)
発売時期: 全国各地のチューダーブティックにて販売